お名前:Tomo Ogino
居住地:Montrose
経歴:甲府市出身。武蔵野美術大学卒業後、マーケティング系の会社に4年弱勤め、新たにデザインを学ぶために渡米。ロサンゼルスのArtCenter College of DesignをDistinctionで卒業後、ブランディングを中心にフリーランスのコミュニケーションデザイナーとして活躍中。
南カリフォルニア暦:9年
お子さんの年齢と性別:7ヶ月(男の子)
Q:出産はどこでされましたか?(アメリカ/日本?)自然分娩/無痛分娩/帝王切開?何か出産時の面白いエピソードがあれば教えて下さい。
ロサンゼルスのCedars-Sinaiで出産しました。前夜8時くらいにドゥーラの面接をして、この方にお願いしようと決めた後、夜中の12時まで仕事をし、その5時間後には陣痛が始まりました。赤ちゃんが「もう出てきても安心!」って思ったのかもしれません。すぐにそのドゥーラに電話をしたところ「シャワーを浴びたら向かうから待っててね」と言われ、ゴロゴロしているうちにあっという間に陣痛の間隔が短くなり、病院に電話をしたらすぐに来るようにと指示を受けました。結婚前は子供を作りたがっていなかった夫ですが、家を出る直前にわたしの目を見て「I’m so excited!」と目を輝かせていた顔は今でも忘れません。自宅に来るはずだったドゥーラは、急遽病院で合流しました。
元から無痛分娩にするか自然分娩にするか迷っていて、Birth Planにも「当日決めます」と書いておきました。予想以上に早いスピードで陣痛が進んだので、病院について2時間半もしたらすでに10cmまで開いていて、「もうpushできるわね!」と言われました。2、3回いきんだら、悲鳴を上げているわたしに同情した看護師さんが「麻酔する?」と勧めてきました。「これより痛くなるの?」と聞いたら、「そうでもないわね。今が一番痛い」というので、このままいけるかもと思ったのですが、せっかくアメリカで出産するなら無痛分娩も試してみたいという考えが頭によぎり、結局注射をしてもらいました。後から授乳カウンセラーに聞いたら、「10cmでよく麻酔が効いたわね!」と言われました。普通は7cmを過ぎたら注射しないなんてその時初めて知りました。
いきみ方がわかりにくかったので、結果的に無痛分娩がよかったのかはわかりませんが、体力の回復は確かに早かった気がします。ドゥーラには「初めてのお産でこんなにスムーズなんてすごく珍しいわよ!もしもう一人産むなら、次はもっと早いから気をつけてね!」と言われました。次なんて今はとても考えられませんが。
Q:出産後何が一番変わりましたか?
出産してまもなくのこと、夫と子供を連れて散歩をしている時に、すれ違う人たちをひとりひとり目で追いながら、ふと「みんな誰かの子供なんだ」という思いがじわっと心に溢れてきました。当たり前のことですが、人が人の命をつくり、命を繋いできたからこそわたしがいるのだということを、心の底から感じた瞬間でした。それまでは学問や仕事、生活など、自分のことで精一杯でしたが、出産を経て、未来に何が残せるのかと考えるようになり、次の世代に対して責任感が強くなったように思います。
そしてもうひとつ、人に頼るということを覚えました。これまでは夫に呆れられるくらい人に頼るのが苦手な性格だったのですが、自分では抱えきれないことを誰かにお願いすることで、心の重荷が取れることを知りましたし、人って頼られるのが好きな生き物なのだなということにも気づきました。先月夫が3週間出張で完全に子供と二人きりになったのですが、その時も、友人に泊まりに来てもらったり、わたしたちが泊まりに行ったりして、孤独なはずの3週間が、思いがけず楽しいものとなりました。良い意味で図太く、それでいて融通が効くようになったと思います。
Q:育児ポリシーは何ですか?
子育てには、習い事や教育だけではなく、スリープトレーニングなどの生活習慣を決定づけるものから、食べ物やおもちゃ、メディアの与え方など、どんな小さなことでもひとつひとつに親の判断が必要になってきます。わたしの子もまだ7ヶ月ですが、毎日悩むことばかりです。こうした中で夫と話したのは、何かを決めるときの判断基準として、親にとって都合のよい子育てではなく、常に子供にとって何が良いのかを考えようということです。
そして我が子には、伸び伸びと健やかに成長し、たくさん笑って欲しい。子供は親を見て学びますから、何より親がたくさん笑って、仲良くしているのが一番です。こうした親の姿を見て、愛し方、愛され方が分かる人になって欲しいと思っています。
また、赤ちゃんだからといって部屋に閉じ込めて過剰に守ることは避けています。生後すぐにサンタバーバラに日帰り旅行に行きましたし、今年は夫の仕事の関係で、夏は京都、初冬にはノルウェーとベニスを旅行する予定です。蒸し暑い日本の夏から、幻想的なオーロラまでを0歳で経験できるなんて貴重ですよね。小さい頃からこうした幅広い経験を積ませることで、豊かな感性を育て、物事を広い視野で見られるようになって欲しいと願っています。
Q:お子さん達はデイケア/プリスクールに通われていますか?(何歳からですか?日系ですか?現地校ですか?)
多くのアメリカ人ママが早くから仕事に復帰するので、わたしもそうしようと思っていたのですが、フリーランスなので赤ちゃんが家にいる状態でどのように仕事をしてよいのかわかりませんでした。産後3ヶ月がすぎ、でそろそろ仕事を始めようと思っていたときに、車で走っていてたまたま”Co-working Place with Daycare”というCollab&Playの看板を見かけ、「これは!」と思い、早速電話をかけました。聞いてみると、まだ今年できたばかりで会員も少ないので、ケアテイカーひとりに子供が1、2人という余裕のある状態。デザインに必要な大きなモニターが持ち込めないので多少の不便はありますが、いつでも子供の姿が覗け、子供が泣けば抱きしめたり、必要に応じて授乳したりできる環境はとても理想的です。現在は子供がまだ小さいので、新しいクライアントはできるだけお断りして、これまでのクライアントを中心に週に2〜4回通う程度の仕事量に抑えています。
Q:仕事と育児のバランスについて。仕事をしていて良かったというエピソードは?逆に、仕事をしていて大変だったというエピソードは?
夫の出張が多いので、子供と何日も二人きりになることがよくあるのですが、そんな時は特にそのコワーキングスペース行くようにしています。それによって例え2、3時間でも両手が空くことで、心がリフレッシュします。その後子供とまた二人きりになっても、気持ちに余裕ができているので、ますます子供を愛しく思えます。
大変だったエピソードですか。ありがたいことにアメリカにいるのでクライアントの子育てへの理解も深く助かっています。また、日本のクライアントも今年子供が生まれたばかりという方が多かったので、皆さんとても優しくしてくださいます。スカイプミーティング中に授乳しながらプレゼンした時でさえ、何事もなかったように受け入れていただき、とても感謝しています。
これから子供が突然病気になったり怪我をしたりということがあるでしょうから、きっとたくさんのチャレンジがあるのではないかと思います。ただ、この歳になって、子供もできて、自分が信じることに対して正直でありたいと心から思い、それによって人に嫌われることも怖くなくなったと言いますか、仕事も育児も一瞬一瞬を大事にして、何があっても後悔しない決断を出せる、総合的に見て最善の選択ができるような人でありたいと常に心がけています。
Q:旦那さんとの子育て分担はどのようにされていますか?
息子の初めてのオムツ替えは夫でしたので、わたしは夫にオムツの替え方を教えてもらいました。それ以来、オムツ替えは自分の仕事だと思っているのか、喜んでやってくれています。なんでもゲームのようにして楽しむので、彼がすればオムツ替えも「宝探しごっこ」になって、子供も大笑いします。先日「なんでそんなにオムツ替えが好きなの?」と聞いたら、「これもコミュニケーションのひとつでしょ?」と言っていました。そんな風に考えられる夫をとても誇らしく思います。わたしは育児本など買ったことありませんが、夫はすでに10冊ほど購入して勉強していますし、わたしにも読めといって日本語訳をわざわざ取り寄せて買ってくれたりします。他にもほぼ全てのことを二人で分担しています。ただ、寝かしつけだけはわたしじゃないとできません。夫だと二人とも遊びたくてしかたないみたいで、全然寝てくれませんね。
Q:アメリカでの育児で大変だったエピソードは?その困難をどのように乗り越えましたか?
頼れる家族や親戚が近くにいないというのは本当に辛いものです。こちらで仲良くしている友人たちも、子供がいない人が多いので、妊娠中も産後も、誰に何を聞いていいのかわかりませんでした。初めはインターネットでひたすら検索していたのですが、情報が多すぎて余計に混乱し、逆に不安になったりもしました。やはり実際に最近子育てをしている人に聞くのが一番だと考え直し、1、2度しか会ったことがなくても、とにかく思いつく限りの信頼できそうなママたちに連絡を取り、聞くことにしました。いま思えば本当に必死でしたね。
結果、みなさん実に親切で、安心な赤ちゃんグッズのリンクを送ってくれたり、親身になって悩みを聞いてくれ、とても励みになりました。特に乳腺炎になりかけた時は大変でした。アメリカにはおっぱいマッサージなんてないですから。痛くて眠れない日々が続いていたところ、在米日本人コミュニティーからマッサージと授乳カウンセリングをしてくれる方を探し出してくれた友人には本当に感謝しています。また、ベイビーシャワーの企画から産後のサポートまで、とにかく気を遣って助けてくれたフォトグラファーの友人、ステラには感謝してもしきれません。
こうしたことを積み重ねるに連れ、友達の意味やサポートシステムの重要性を考えるようになりました。それがもとでMaker Mamasというママグループを作ることにしました。
Q:バイリンガル/トライリンガルになるように特別にしていることはありますか?
多くのマルチリンガルの家庭で実践しているように、我が家でもわたしは日本語、夫は英語で話しかけるようにしています。小児科のお医者さんに勧められたので、日本語の絵本も毎日読んでいます。
また、子供がわたし以外の日本語を定期的に触れる環境をつくるため、そしてママ同士の情報共有やサポートシステムを作るため、日本人ママグループに入りたいと前から思っていたのですが、どうしても子供の月齢が近いママグループを見つけることができませんでした。そこで「なかったら作ればいい」という自分のモットーに従って、グループを作ることにしました。それが先ほどのMaker Mamasです。初めは日本語スピーカーであることと、わたしの子供と月齢が近いということだけが必要条件だったのですが、アーティストやデザイナー、またはその家族が自然と集まってきたので、その分野にフォーカスしたグループになりつつあります。そんなこともあり、Maker Mamasという名前をつけました。
Q:お子さんと一緒に行くオススメ地元スポットを二つ教えて下さい。
La Cañada FlintridgeのDescanso Gardensは落ち着いていてとても好きです。日本庭園やギャラリーもありますし、小さな汽車もあるので、子供が大きくなったら一緒に乗りたいと思っています。DowntownのJapanese American Cultural & Community Centerの中庭も素敵です。ストローラーで歩けるようなところではないですが、家族写真などに最適ですよ。そしてLACMAもお勧めです。一日中遊べますし、もう少し大きくなれば子供向けのアクティビティにも参加させたいと思っています。そしてレストランならEagle RockのLittle Beastが最高です。美味しくてお洒落なのに、いろんな年代の人がいて、子連れでも気になりません。ただひとつ、オムツ替えの台がないのが残念です。二つ挙げてと言われたのにたくさんになってしまいましたね!
Q:好きな子供ブランドはどこですか?
洋服はありがたいことにたくさんいただくのであまり買いませんが、プロダクトならたくさんあります。わたしは、子供のものとはいえ物を無駄にしないように努力しているので、「子供と一緒に成長する」というコンセプトのものが好きです。例えばThinkBabyのボトルは哺乳瓶からシッピーカップ、そしてストローまで、子供の成長に合わせて同じボトルがトランスフォームするのが魅力です。また、StokkeのTripp Trappハイチェアも赤ちゃんが大人になっても使えるので気に入っています。息子も大好きで食事の時は毎日ご機嫌で座っています。友人の話によると、ある家庭ではお父さんが使っていたTripp Trappを今はその子供が使っているとのことで、このストーリーを聞いただけでも、多少高くてもその価値はあると思えます。
Q:趣味は何ですか?
家族旅行は大好きです。といっても夫が旅行の計画を立てるのが趣味なので、行き先、ルート、ホテル、レストランなどをほとんど決めてくれて、わたしは当日トランクと一緒に玄関に立つだけという、なんともラッキーな立場です。他には、職業柄、ロゴやパッケージ、タイポグラフィなどに目が行きます。チョコレートやコーヒーなどのパッケージはひとつひとつ大事にファイリングしています。旅行先でも必ずローカルのスーパーに寄ってパッケージの写真を撮ったり、ローカルフードを買ったりするのが大好きです。
Q:今後の夢は何ですか?
仕事でいえば、将来的には自分の学んだことを、日米問わず次の世代に教えたいと思っています。今もゲストスピーカーで呼ばれることはたまにありますし、大学の後輩たちのメンターもしているのですが、自分の生徒という形で継続的、計画的に教えたことはないので、いずれはなんらかの形で実現させたいです。また、本を出版したいと思っています。内容はまだまだ具体的ではないので、またどこかでお知らせできたら嬉しいです。プライベートでいえば、今が夢のようで、全く不満もないのです。ただ、人として、将来息子が心から誇れるような親になりたいと思っています。
【インタビューを終えて】
紹介を経て出会い、インタビューまでに三度お会いしているともさん。クリエティブな仕事をされているだけに、発想や生き方も豊かでクリエティブで、会う度に違う魅力を感じさせてくれる彼女。とても真っすぐに生きている方で、特に「仕事も育児も一瞬一瞬を大事にして、何があっても後悔しない決断を出せる、総合的に見て最善の選択ができるような人でありたいと常に心がけています」という言葉は、私にとっては彼女を一番表している言葉に感じられ、とても心に響きました。親にとって都合のよい子育てではなく、子供にとって何が良いのか?を常に2人で話し合いながら二人三脚で子育てをされている姿も素晴らしいと思いました。共感する事も学びもとても多かった今回のインタビュー。ご協力本当に有り難うございました!
今回が50回目のインタビュー。約1年前に始めたインタビューで、50人ものママに出会い、子育て・生き方について話を聞かせてもらってきたと思うと感慨深いものがあり、一人のママとしてお話する中で学んできた事は何にも代え難いものだと心から感謝しています。インタビューをする中でこれは!と思ったことは1回につき少なくとも1つは自分の子育てにも取り入れていっているのですが、こうする事で益々子育てを楽しめている自分に最近気づきました。そして子育てって周りのみんなの知恵や力や手を借りながらするものなんだなあとしみじみと感じています。100回を目指して続けていきますので、これからもどうぞ応援よろしくお願いします!
Photo Credit: Stella Kalinina http://www.stellakalinina.com